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光岡眞里の「あゆみ」メールマガジン今日も元気にパワフルに!
作者:光岡眞里 2025年06月12日号 VOL.744
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以前このメルマガで、92歳の女性が営む小さな定食屋さんを紹介したことを覚えているだろうか。
今回は、男性のお話。
昨日入った喫茶店――
昭和の香りが残る、古びた店だけど趣のあるその店で、私はその人に出会ってしまった。
素敵な帽子に、柄のジャケット。
長身で背筋はすっと伸びている。年齢は…きっと80歳はとうに過ぎていると思う。
壁一面、天井までずらりと並ぶコーヒーカップ。
思わず「すごいですね」と声をかけると、「隣の倉庫にもまだあるよ」と一言。
それ以上、余計な説明はない。だが、静かに誇りを感じさせる眼差しだった。
店内には、ほどよい音量で洒落たジャズが流れている。
時間がなかった私は「すぐできるのは何ですか?」と尋ねると、
「ゴボ天うどん。」
うどん?昨日食べたなぁと戸惑うと、
「ピラフ、うまいよ」と、また一言。
ではピラフを頼んでみる。
正直、冷凍をチンかな…と思っていた。
けれど、彼は手早く厨房に立ち、小鉢に肉じゃがを添え、お吸い物まで手作りして出してくれた。
……うますぎる。
地域の人たちが、ぽつりぽつりと入ってくる。
この店には「時の流れ」があり、それを愛している人たちがいるのだ。
食後のコーヒーは、濃いピンク色の花柄のお皿を二枚重ね、その上に立派なカップがのって出てきた。
口数は少ないけれど、きっとこの人、若い頃モテたんだろうな――そんな雰囲気。
私は、こういう人たちを見ると、なんだか胸がグッとくる。
そういえば、冒頭で触れた女性の定食屋さん。
この前通ったら、シャッターに不動産の看板がかかっていた。
ああ、そうか。
みんな、そうして通り過ぎていく。
まるで、流れるように、静かに順番がやってくる。
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