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光岡眞里の「あゆみ」メールマガジン今日も元気にパワフルに!
作者:光岡眞里 2026年08月27日号 VOL.807
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昨日、家族の用事で上京した。日程はずいぶん前から押さえてあった。その日にちょうど気になっていた公演があると知り、チケットを取った。
久石譲だ。サントリーホール。
本物のファンにとっては当然のことなのかもしれないが、ジブリは一曲もなかった。
名前を聞けばあの旋律が浮かぶ人がほとんどだと思うが、そこには戻らない。
前半はフィリップ・グラスの交響曲第一番「ロウ」。デヴィッド・ボウイとブライアン・イーノが一九七七年に出したアルバムをもとに、一九九二年に書かれた曲だそうだ。後半は久石譲自身の「Concerto for Orchestra」で、今年ニューヨークで初めて演奏されたばかりの曲の日本初演だった。ニューヨークでも東京でも即完売だったらしい。
彼は一言も発しない。出てきて頭を下げる。終わればまた頭を下げて、楽団員に礼を言う。九十人ほど、ほとんどが日本人の奏者だ。挨拶もなければ曲の解説もない。音だけ置いて帰っていく。
聴きながら坂本龍一を思い出した。世間が求める顔と、本人が進みたい方向は、たいてい一致しない。求められる顔を続けるほうが、間違いなく安全だ。売れたものをもう一度出せば人は喜ぶし、こちらも困らない。それでも別の道を歩く人がいる。
ボウイのアルバムを下敷きにした交響曲を先に置いて、そのあとに自分の新しい曲を出す。プログラムの順番だけで、この人がどこに立っているかが分かる。敬意は過去に払い、自分は前を向く。前半と後半のあいだに、ジブリの入る場所はどこにもなかった。
歳を重ねると、たいていの人は自分の代表作の管理人になる。うまくいったやり方をなぞって、減らさないように守る。私の仕事もそうなりかねない。前に当たった企画をもう一度出せば、しばらくは食べていける。ただ、それを続けた先に面白いことは何も起きない。
仕事柄、たくさんの高齢の方に会う。話していて気持ちがいいのは、昔の手柄ではなく今やっていることを話す人だ。年齢とは関係がない。何かを覚えたばかりの人の顔は、八十歳でも変わらない。逆に、自分の一番良かった時期の話ばかりする人は、五十代でももう止まって見える。
怖いのは、進んだ先で客がいなくなることだ。だが昨日のホールは満席で、拍手は長かった。半歩先を行く人には、ちゃんと人がついてくる。
昨日聴いたのは、たしかに高い芸術品だった。それでいて、やはり久石譲の音だった。遠くまで行っても本人のままだ。進むことと、自分でなくなることは、別のことなのだと思う。
おわり。
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